教室に戻る途中、和成に会った。
「敦哉君…。教室にいないから、びっくりしたよ…。」
『また何かあったかと思った』
その通り、また何かあったんだけど、恵美ちゃんが隣にいるし、
長話はできないと思い、俺は言った。
「ごめん。心配かけて。ちょっと咲葉さんと電話してて…。
 とりあえず、咲葉さんの大阪行きはなくなったから。…今度話す。」
「よかったね…。じゃ、また聞かせて。」
和成も笑って言い、恵美ちゃんと歩いて行く。
そういえば、和成が俺を心配することは少なくなったな。
昨日の大遅刻だって、和成は全然俺を責めず拍子抜けしたくらいだ。
もしかして、心配されたかったのは俺のほうなのかもしれない。
和成の背中を見送りながら、ふと思った。

俺が保健室に入ると、祐子さんはもうサラダを食べていた。
「敦哉、今日遅かったわねー。」
「うん…。咲葉さんと電話してた。」
俺は鞄から弁当を出して言った。
「ラブラブねえー。」
祐子さんの冷やかしを、なんとも思わずに俺は言う。
「咲葉さん、大阪に行かなくなって、会社を辞めるって。」
「え?」
『怒涛の展開…』
「実家に帰るって言うから、結婚しようって言ったら
 とりあえずそれは置いといてって、言われた…。」
簡単に説明してみて、自分が一番へこむ。
俺の勇気は、とりあえず置かれたんだな…。
「ふっ。」
え?と思い、祐子さんを見ると笑っていた。
慰められるとは思ってなかったけど、笑われるとも思っていなかった。
ひどすぎる…。
そんな俺を慰めるように
「それは可哀想だったわね…。」
祐子さんは言うが、やっぱり顔は笑っている。
本当は何を思っているか知りたいけど、目を見てくれない。
しかたがないので、俺は弁当を食べることにした。
…どうせバカにされてるんだろうし。
すると、祐子さんは呟くように言った。
「電車に乗るようになってから、敦哉が生き生きとしててうれしいわ。」
生き生きと?俺は今すごく悲しいけど…。無言で弁当を食べ続ける。
「…そういえば、うちの学校、事務員探してるわよ。
 今の子、結婚して辞めちゃうんだって。咲葉ちゃん、いいんじゃない?」
顔を上げて見ると、祐子さんはいつものように笑っていた。
咲葉さんが学校で働くのか…。
それはいいかもしれない。顔を見たくなったら、いつでも見れるし…。
でも…。
「やっぱり、結婚は無理なのかな…。」
諦めきれずに俺は言う。
「しつこい男は嫌われるわよ。咲葉ちゃんが、結婚したくなるような男になりなさい。」
はっとして、俺は祐子さんの顔を見た。
『とりあえず、ウジ男は無理よね』
「はい…。」
やっぱり俺は何も考えずに、弁当を食べることにした。