学校に着くと授業は始まっていて、どうしたらいいのかわからないので、
俺は保健室に行った。
「敦哉!どうしたの…。何があったの?」
祐子さんが飛んできた。心配そうな顔をしている。
「ごめんなさい。ちょっと色々あって…。」
その顔を見て、俺は自分の軽率な行動を悔やんだ。
「とりあえず、修に電話するわ…。ちょっと待って。」
みんなに心配かけちゃったんだな…。電話くらいすればよかった。
反省して待っていると、祐子さんが電話を終えて俺に聞いた。
「で、何があったの?」
「うん…。」
俺は”死にたい”という声を電車で聞いて、咲葉さんとその人を追ったことを話した。
「そう…。何事も無くてよかったけど、もうこういうことはやめてほしいわ…。」
目を伏せて祐子さんは言った。
「でも、咲葉さんの知ってる人だったし。咲葉さんがいたから大丈夫だと思って…。」
「せっぱつまった人間が、どんな行動に出るかなんてわからないでしょ?」
祐子さんは厳しい顔で言った。
「咲葉ちゃんだって、本当はお金目当てかもしれないじゃない…。」
冷めた目で言う祐子さんに、俺は反論する。
「…何言ってるの?そんなわけないじゃん。」
「わからないじゃない…。そういう子、いたでしょ。昔から。」
険しい顔で祐子さんは言った。
…確かに、俺の家のことを知っていて、近づいてくる子もいた。
それが心の声でわかって、人間不信に拍車をかけたかもしれない。
「でも…咲葉さんは違うよ。そんな声、聞いたことないもん。」
「言わないだけよ。話を聞いてると器用そうだもんね、使い分けてて。」
祐子さんのはっきりした物言いはいつものことだけど、さすがに俺も今は苛立ちを隠せなくなった。
「何それ。咲葉さんに会ったことないのに。」
「そうね。一昨日、修の反対を押し切って行けば良かったわ…。
 でも、敦哉を危ない目に合わせるような子は、信用できない。」
それは咲葉さんのせいじゃないけど、これ以上言っても俺の言葉は届かない気がして
話すのをやめることにした。
チャイムが鳴ったので、俺は立ち上がる。
「心配かけてごめんね。」
とだけ言って、教室に向かった。