咲葉さんが帰ったあと、すぐに和成が来た。
俺は、咲葉さんに本当のことを言って告白したことを手短に話し、
どうやって恵美ちゃんと付き合い始めたのかを聞いた。
「どうって…。自然に、かなあ…。」
照れたように笑って、和成は言った。
「自然につきあうって、どういうこと?」
俺が、和成の目をまっすぐに見て聞くと
『敦哉君、必死すぎ…』
苦笑いした和成の心の声が聞こえた。
「すごく必死だよ…。だってどうしたらいいのか、わからないんだもん…。」
「咲葉さんの気持ちは聞こえないんだ?」
「うん…。すぐ目をそらされる。」
言ってみて、もしかして嫌われてるのか?という疑念がわく。
「へー…。」
『それって…』
和成はそう言って、目をそらした。
「え?何?”それって”ってどういうこと?」
俺は焦って和成を問いただす。
和成は笑って顔をあげた。
『敦哉君、落ち着いて…』
心の声が聞こえて、すぐに和成は言う。
「聞かれちゃ困るってことだから…いいことなんじゃないかなあ。」
いいこと、なんだろうか。でも…。
「心の中で、嫌いって言ってるのかもしれないじゃん…」
「嫌いだったら、家まで来ないよ。」
俺の言葉を遮るように、和成は言った。
…確かに、咲葉さんは嫌いなやつの家になんか行かないか。
そんなことするくらいなら、家でゴロゴロすることを選ぶだろう。
「…俺と恵美も、お互いに好きだなって思ってから付き合うまで、少し間があったんだよ。」
和成は、恥ずかしそうに笑いながら言った。
「ただの両思いと違って、つきあうっていうことに責任を感じてたんだ。
 …敦哉君はそういう感じしない?」
すぐに俺は答えた。
「しない。つきあえれば安心っていうか、嬉しいなとしか…。
 そもそも咲葉さんと両思いな訳ないし。ぬいぐるみみたいで好きとは言われたけど…。」
改めて言葉にしてみると、なんだか落ち込むな、と思っていると、和成は言った。
「でも、咲葉さんは両思いだと思ってるかもよ。」
…え?驚いて俺は、和成の顔を凝視する。
その顔を見て和成は苦笑いをした。
『顔が怖いよ…』
心の声を聞いて冷静になろうとしていると、和成は言った。
「…ぬいぐるみみたいでも好きは好きだし、可愛いって言うのも
 可愛くて好きって言ってると思えば、両思いっぽいよ。」
強引な理論だなあ…。和成らしくない…。
咲葉さんからの重要なサインを、俺が見落としているのかと思ったので、
ちょっとガッカリしてしまう。
そんな俺に気づかす、和成は続けた。
「恵美とつきあってみて思ったんだ。あまり考えずぎるのもよくないって。
 一人で考えるとどうしてもネガティブになるし、相手を信じられなくなっちゃうんだよね。」
確かに、咲葉さんが隣にいればなんでもできそうなのに、
咲葉さんがいない今は、また会えるのかどうかも不安だ。
「だから、咲葉さんの好きって言う言葉だけを信じて、楽観的に待ってみれば?」
「うん…。」
和成が珍しく満面の笑みで言うから、そうしようかな、と思ってしまう。
でも…。
「待ちつつも、できることって無いかな…。
 今度お土産に持って来てって言われたワインを、明日家に持って行ったら喜ぶかな…?」
そう言って和成の顔を見ると冷めた顔をしていて
『いきなり行くのはちょっと…』
と心の声が聞こえた。
「今日会えたんだし、月曜日の朝も会うんでしょ?…ちょっと我慢しようか。」
和成が諭すように言う。
呆れられているような気がするけど、念のため聞いておこう。
「メールはしてもいいかな…。」
恐る恐る和成の顔を見ると、普通に笑っていた。
「全然いいと思うよ。…でも、返事が来なくても落ち込まない程度にすること。
 きっと咲葉さんも、のんびりと休日を過ごしたいだろうから。」
『しつこいのはダメだよ』
「…はい。」
俺は恋愛の先輩の意見をきちんと聞こうと思い、真面目に返事をする。

そのあとも、俺のしつこい質問を和成は笑顔で聞いてくれた。
いつもは心の声を隠してくれる和成だけど、今日は遠慮せずに言葉にするので
グサリとくることもあったが、咲葉さんとのためなら、と真摯に受け止めた。
そのうち、隠されるより、さらけ出してくれるほうが嬉しいってことに気づいた。
気を使って話されるよりも、何も気にせず楽しく話をしてくれるほうが、俺も楽しい。
あんなに聞くのが嫌だった声なのに、不思議だ。