「あらまた今日は暗いわねー。」
『恋してるわねえ』
俺の顔を見て、笑いながら祐子さんは言った。
やっぱり来なければよかった…。
絶対にからかわれると思ったから、保健室に行くかどうか迷った。
でも聞いてもらわないと、死んでしまいそう。
「で、どうしたの?」
気持ち悪いくらい、優しく祐子さんは聞いた。
「優しくしないで、って聞こえた…。」
出てきた声が小さすぎて、自分でも驚く。
「あら。どうしたのかしらね…。」
「わかんない。昨日メール送らなくてごめんね、とは言ってた。」
「…手がかり少ないわね。」
俺もそう思う。だからどうしたらいいか、わからない。
そう思ってため息をつくと、祐子さんがとんでもないことを言った。
「咲葉ちゃん、彼氏いるんじゃない?」
驚いて俺は祐子さんの顔を見る。
「そんなことって、あるの?」
「あるでしょ。大人の女なんだから。」
「彼がいるのに、違う男と二人で会ったりするの?」
なんだか言ってて悲しくなってきた。
「残念ながら、そういうことが平気な女もいるわ。」
「咲葉さんはそんな人じゃない…。」
そう言う自分の声が、情けなくて嫌になる。
「そうね。直接、聞いてみなさい。
 心の声も聞こえるから、何かわかるでしょ。」
え?どういうこと?それって、もしかして…。
「…かまかけろ、ってこと?」
「そう。せっかくあるその能力、活かしなさいよ。」
祐子さんの心の声は聞こえない。真剣に言っているようだ。
「そんなふうに使いたくない。…勝手に心の中を覗くなんて、嫌だ。」
聞こえてしまうのはしかたない、って修が言ってくれてるのに。
聞こうと誘導するなんて、ずるい。汚いよ。
それも、咲葉さんにそんなことするなんて…。
「じゃ、咲葉ちゃんが言ってくれるまで待つの?
 何も言わずに、突然バイバイ、かもしれないわよ。」
俺は祐子さんの顔を睨むように見た。
「本当のことを全部言えるんだったら、そうする必要も無いけどね。」
そうか…それもそうだな。
でも、何だかもう、頭がいっぱいだ…。
何も考えたくなくなってきた。俺の目を覚ますかのように、予鈴が鳴っている。
俺は重い体を引きずるように、教室へ向かった。