休日のメールは、何時にするのがベストなんだろうか。
俺は朝起きてから、ずっと時計を気にしている。
今は8時。さすがに早いよな。9時…まだ早い気がする。
10時は?いいと思うんだけど、どうなんだろうか。
咲葉さん、お酒飲んでたからなあ…。
いつかだったか祐子さんが、
昨日飲んだから辛いわ、午後になればお酒が抜けるんだけど、
って言ってたのを思い出す。
午後になるまで、待ったほうがいいんだろうか。
あー、でも先が長い…。はやくメールで話したい…。

悩んでいると、部屋をノックする音がする。
「はい。どうぞ。」
返事をしてドアを開けると、和成が立っていた。
「おはよう。朝早くからごめん…。」
『早すぎると思ったけど、気になって…』
少し照れたように笑っている。
笑顔に安心しながら、俺は言った。
「大丈夫だよ。来てくれて、ありがとう。座ってよ。」
きっと、これから和成は予備校に行くんだよな。手短に話そう。
そう思って、俺は咲葉さんとのことを話し始めた。
告白して、メアドを交換したこと。
好意は持ってくれてるみたいだけど、心の声が聞こえただけで言われてないから、
まずはメールで仲良くなれ、って祐子さんにアドバイスをもらったこと。
昨日メールをして、仲良くなれた気がすること。
そして最後に、一番言いたかったことを伝えた。
「俺、すごく楽しいんだ…。こんなに毎日が楽しかったことなんて、初めてかもしれない。」
和成は俺の顔を見て、笑顔でうなずいた。
「これからどうなるかわからないけど、今幸せなのが、すごく嬉しいんだ。」
言ってみると、実感がこみあげる。俺、本当に幸せだ…。
すると、和成は言った。
「よかったね。…咲葉さんに会ってみたいな。」
『敦哉君がこんなに好きになるなんて、どんな人なんだろう』
俺は、和成の優しい心の声に安心する。
「もっと仲良くなったら紹介するよ。お酒飲んでゴロゴロするのが好きなんだって。」
「ふーん…。」
そう言って、和成は目をそらしてしまった。でも、うつむいた顔は笑っている。
余計なことを言ってしまった気がしたが、その笑顔に俺はまた安心した。
すると、和成が意外なことを言った。
「それにしても、すごい行動力だね。…小さい頃の敦哉君に戻ったみたいだ。」
「そうかな…。いつも心の声に怯えて、ウジウジしてた気がするけど。」
俺に行動力なんて、あっただろうか。
「そういうところもあるけど、怯えているわりには怖い先生の顔をじっと見るし、
 可愛いけど一癖ありそうな女の子を気にいるし…。なんて言うか…。」
考えた挙句、和成は俺の顔を見て言った。
「変な人が気になるみたいだったよね。」
その言葉に俺は驚く。
「そ、そうかな…。」
そんなつもりはなかったと思うんだけど…。
「うん。本能的に避けてしまうような人を、わざわざ見てる気がしてた。
 なんで見ちゃうんだろうって、いつも思っていたよ。」
そうえいば、そうだ。和成はいつも「見なければいいんだよ」って言ってくれてた。
でも見ちゃうんだよって思ってたけど…それは俺が見たかったのだろうか。
「それで顔が見えないと、わざわざ近づいて行ってさ…。
 怯えてる割には行動力あるよな、っていつも感心してた。」
そう言って和成はうつむいた。よく見ると笑っている。
「髪を伸ばし始めた頃から、敦哉君は弱気になることが多くなった気がする。
 その気持ちもわかるから、仕方ないと思ってたし、心配だったけど…。」
和成は顔をあげて、やっぱり笑顔で言った。
「今の敦哉君のほうが、楽しそうでいいよ。」
『幸せそうだし』
「うん…。ありがとう。」
なんだか腑に落ちない部分は色々あるけど、
和成が笑って認めてくれるなら、些細なことはどうでもいい気がした。
「じゃ、俺、予備校行くね。」
『来て良かった。安心した。』
和成は立ち上がって言った。
「うん。ありがとう。気をつけてね。」
俺も立ち上がり、和成をドアまで見送った。