気づくと、電車は降りる駅のホームについていた。
言わなきゃ。絶対に言いたい。迷いはなかった。怖くもない。
ただ、何を言えばいいのか、わからない。…でも言わないと。
全身に伝えたい気持ちが充満して、血が逆流しているみたいだ。
電車を降りると、あの人は立ち止まって、スマホを見ている。
俺はその横に立った。
静かに深呼吸をすると、俺に気づき、あの人が顔をあげた。
『あ、ふわふわくん』
相変わらず優しい心の声が聞こえた。
「あの…。」
俺は絞りだすように言った。
思いはあるんだけど、言葉にならない。
『どうしたんだろ。じろじろ見てるの、バレた?怒られるかな』
あの人は不安そうな顔で、俺の言葉を待っている。…早く言わないと。
「あの…好きなんです。」
やっぱりこの言葉が出てきてしまった…。アドリブが利かない自分が嫌になる。
怖くて顔を見られない。きっと困ってるだろうな…。
恐る恐る見ると、あの人も目をそらしていた。
考えてるような気がする。そして、目が合って声が聞こえた。
『私のことが好きってこと?いや、そんなわけない』
「あなたのことが、好きなんです。」
心の声を遮るように、俺は言った。
目は合っているけど、あの人の声は聞こえてこない。…ひいてる?
やっちまったかな…、と思って目を伏せると、あの人は言った。
「…ありがとう。」
『嬉しい』
顔を見ると、笑っている。心の何かが、溶けていくようだった。
「ごめん、会社行かなきゃ。今度ゆっくり話そうね。」
『ドキドキしちゃう』
「はい。」
…嬉しい、だって。ドキドキする、だって。嬉しいのは俺のほうなのに。
そう思いながら、ゆっくり歩き始めたあの人の少し後ろを、ついていく。
「名前、聞いていい?」
振り向いて、あの人は言った。
「田島敦哉です。」
隣まで急いで歩いて、俺は答える。
「敦哉君ね。私は山本咲葉。」
『メアド聞きたいけど、引かれるかなー』
少し恥ずかしそうな心の声。
…全然そんなことないです。すごく嬉しいです。
「メアド、聞いてもいいですか?」
断れらないとわかっているから、自信満々に俺は聞いた。
…心の声が聞こえるのって、いいかもしれない。
「うん。」
咲葉さんは笑顔で答える。
『やったあ。聞いてくれた』
嬉しそうな心の声が聞こえた。
…すげー可愛い。…勇気を出してよかった。
二人で並んで、ゆっくり歩きながらメアドを交換する。
気づくと、もう改札は目の前だった。
「じゃ、遅延証明もらうから、ここで。また月曜日ね。」
『もっと話したかったなー』
そう言って、咲葉さんは駅の窓口へ行った。
俺は咲葉さんの笑顔の余韻を引きずりながら、改札を出た。