生きたい

そう思えたならどんなに幸せな事か。

ねぇ、兄さん。



「___こらっ!」
ばこんっ
私の頭に丸められた数学の教材がぶつけられた。
「授業中よ。テスト終わったからってボケっとしないの!」
私はぶつけられたところをさすりながら不満そうな顔で先生を見つめた。

寝てた?
自分でも気づかなかった。
いつの間に寝ていたんだろう…
確かに昨日は眠れなかったけど。

嫌なこと、思い出したなぁ。

私は樺原 祈。
事情があって数年間の記憶が無いけど、数ヶ月前祖母に進められたこの仰月学園に権力を使って編入してきた。


__キーンコーンカーン…

昼休み。私はこの時間になるとある友達のクラスを訪ねる。
「璃ちゃん」
呼ばれて振り返った彼女は深い若葉の色をした艶やな髪を揺らし薄い唇で
「祈」
と私を呼んで軽く微笑んだ。

藤嶋 璃。
この学年でベスト3に入るくらいの美人。
美少女というより美人。
なんというか、幼さがない大人びた雰囲気なのだ。
アシンメトリーに切りそろえられた前髪の奥には赤い、紅い瞳がこちらを向いていた。
そんな彼女は私がこの学園にきて初めてできた友達だ。
「ここ座って。弁当食べよ。
_てか、あんたさっき怒られてたの?」
「う。」
誰にそれを聞いたのか。
口に入れたたまごやきを喉につまらせそうになった。
(他のクラスにまで話が広まるのは恥ずかしいなぁ…)
「どうせ寝てたんでしょ。」
ううっ。どこまで鋭いんだこの人はっ。
「う、ん。昨日夜ネット見ててちょっとね」
「ふぅん、ネット?何見てたの?」
「七人の使徒のこと」
ガチャン。
璃ちゃんが持っていた箸が机に落ちた。
「えっと…璃ちゃん?」
何かまずいことでも言ったかな。
「いや、なんでもな…」
「へーぇ。樺原さんってそういうの興味あるんだ。」
璃ちゃんの後ろで大きな男の子が仁王立ちしてニコニコしてた。
「編入生だから話したことは無かったよね?僕は澤井 日向。宜しくね、祈ちゃん」
差し伸べられた手をおずおず握ると周りの女子たちの視線が刺さった。
うん、澤井くんは美男子だ。白銀色の髪に爽やかなルックス。
女の子がうらやましがるのもわかる。
黒い細い縁の眼鏡をくいっとあげるとにっこり笑って、
「また今度ゆっくり話でもしようよ。
ここじゃ目立つからさ。」
と、周りに聞こえないように小声で言った。
「は、はい…」
そうして澤井くんは教室から出てどこかへ消えた。
「…祈。校長先生にも言われたでしょ?七人の使徒に必要以上に関わった生徒は退学になるのよ。」
「へへ、気になっただけだから、もう調べないよ」
「ならいいんだけど…」
心配かけちゃったかな。
確かに、この学園に来るときにそう言われた。
だけど、何か、

感じるんだ。何かを。