いつかの日


出会った頃の私ってどんな感じだった?


そうあなたに聞くと、あなたは辛そうな顔をして、優しく私を抱きしめたよね。


きっとあなたは優しいから、あの頃の私を思い出して辛くなると思ったんだよね。


でもね、あなたに出会えたあの瞬間を、私は忘れないよ。



辛い思い出なんかじゃない。


幸せへの扉が開いた時だったのだから。
















ギシッ、ギシ。

今日もまたあの悪夢の時間が過ぎ去った。

時刻は午前3時。

私は疲れ果てた体を起こし、シャワーを浴びるためをベッドから抜け出した。

はやくこの気持ち悪いぬくもりが残る場所から出たかった。


洗面所の鏡に映る自分を見ると、毎日死にたくなる。

青白い顔に、目の下にはクマができ、唇はさっきまで散々雑に使われてからパサパサだ。

どんなに日に日に暗くなっていく顔も、ケアーはおこたらないと決めている。

シャワーを浴び終わり、すぐに化粧水をつけ、リップもいつも以上に濃く塗った。


部屋に戻ると、さっきまで隣で寝ていた気持ち悪い男が起きて、着替えをしているところだった。


「あみ、夜中にシャワーなんて浴びたら、お母さんが起きちゃうだろ。」


そう言って男は私に手を伸ばしてきた。

私はそれを避け、洗面用具を机に置いた。

あんな汚い手で触られたら、またお風呂に入り直さないといけなくなったしまう。

相手を見ずに私は頭を下げると、男はため息をついてズボンのチャックを上げた。


「あみ、明日はお父さん仕事だから遊んであげられないけど、明後日は早く帰ってくるから、いい子にして待ってるんだよ。」


そう言った男は、ドレッサーの鏡越しに私に気持ち悪い笑みを残して、部屋から出て行った。

思わずその場で吐いてしまいそうになったが、胃の中になにも入っていないから、なにも出すことができなかった。

ドレッサーにうつる自分の顔を見て、思わず目をそらしてしまった。

すぐにでもベッドに倒れこんで体をやすめたいが、あの人が寝ていたかと思うとどうしてもベッドには入りたくなくなる。


私はその日、抱き枕といつも寝るときだけ使う汚れていないタオルケットで、床で寝た。


その日の夢は、久しぶりに一番会いたい人たちに会えた。





ビービー、ビービー。


ケータイの目覚ましで起きた、朝6:30。

ほとんど寝られていないけど、ここで起きないとあの人にまた小言を言われる。

すぐに高校の制服に着替え、支度を済ませるとキッチンへと向かった。

まだ誰も起きていないこの時間が、この家にいる時一番自由にできる時間帯だ。

あと30分もすれば、色々と面倒な人たちが降りてきてしまう。

もし寝坊でもして、朝ごはんを出す時間が遅れると、義理の母親に小言を散々言われてしまう。
そして、それを嬉しそうに見てくる、私の2個下で高校1年の、この家長男のあの憎たらしい顔が目に見える。

それよりも面倒なのが、義理の父親で昨日の夜私の部屋にいた、あの気持ち悪い男だ。

私のことは、容赦なく殴る蹴るをしてくる。

そんなことになったら、夜は性処理の道具として、昼間はサンドバッグとなり、私の体はぼろぼろになってしまう。

夜は避けられないが、昼間はなんとかして避けないといけない。


毎日死ぬ気で起きて、いち早く家を出て、帰りも皆んなが寝静まった頃に帰り、あの男のいいなりに数時間耐える毎日を送っている。

今日も変わらず、朝ごはんを3人分作り、食卓に並べて家を出た。

私は基本朝ごはんを食べないから、家の人たちの分を作ったら、大体家を出て高校に向かう。

誰も起きてこないうちに家を出るのが、その日の行く末を決める。