「湯浅……お前…………」


誰もがその中性的な容姿からは想像出来なかっただろう。コブシの利いた演歌を歌う事を。

佐和曰く、洋楽好きの祖父が唯一何度も何度も繰り返し聞いていた演歌だそうで。

だからなのか彼女は思わずその歌声に聞き入ってしまっていた。

盛り上がろうとしても盛り上がる事も出来ず。誰もが黙りこんでしまう。

その黙り方も様々だ。蛍人の選曲にまだ唖然としている者、演歌は退屈だと携帯をいじっている者。

そして彼に好意を寄せている上級生達は、ドン引きする事もなくその歌声に聞き惚れ、声援を送る事も忘れていた。

しかしその歌声はたまに音程を外しているからか、決して上手いとも断言は出来なかった。