彼らだけではない。旭も匡平は知らない筈なのに、

自分が正に歌おうとしていた曲が流れた事に驚いていた。

旭は沢谷が教えていた事を知らなかったのだ。

彼が唯一まともに歌えるジャンルは童謡。中でもこの森のくまさんは彼の十八番であった。


意外な選曲に呆然とし、ほぼ全員が持って来た耳栓等の防音対策をうっかり忘れたままの状態の中で旭は歌い出した。


「あ、しまった。耳栓……」


我に返った時はもう遅く。だがしかし。旭のその歌はやはり音は外しているものの、そこまでひどい歌声ではなかった。

普段の旭ならば耳栓をしてやっと耐えられるような歌声。だが耳栓をしなくても耐えられる歌声だったのだ。