それでもまだ少し迷いを感じている佐和に、郁人はこっそりと佐和に囁く。柚太には聞こえないように。

その言葉のおかげか、佐和の迷いは吹っ切れる事が出来た。


「ユズ、行こう」


柚太の手を取り、強引に佐和は急流すべりへと向かおうとする。

突然の行動に柚太はフッとベンチに腰掛ける郁人を見た。

柚太からすればそれはやはりいつもの郁人とは少し違う郁人だった。


「佐和はそれで良いのか?」

「うん。苦しんでいるのに楽しんじゃいけないって分かっているけど……。
郁ちゃん、さっき小声で教えてくれた。ワタシの笑顔があれば良いって。
ワタシが楽しく笑っていてくれさえすれば少しは痛みも和らぐって。だから」

「郁人が1番元気になるには“楽しんで来たよ、って言う笑顔を見せる事”と言う事?」