「柚太、佐和ちゃんが1番乗りたいと思っているのって確か……」

「ああ。あの急流すべりだ。平日でも1時間半は余裕で待つと思うが」

「佐和ちゃんは僕が見ているから。柚太は少しでも佐和ちゃんに悪かったと思っているなら、
今すぐにそこの優先パスを持って来て。あれがあれば待ち時間少なくて済むようになるんだろ?」


そう言うと、柚太の返事を待たずして郁人は勇気を振り絞り佐和の元へと歩み寄って行く。

動こうとしない重い足を1歩1歩ゆっくりと。


「さ、佐和ちゃん……」

「何、郁ちゃん。郁ちゃん乗りたくないんでしょ? 無理して乗らなくて良いってば」


恐る恐る郁人は佐和に話し掛け、彼に気付いた佐和は不満げにそう言ってのけた。

正直郁人は今逃げ出したい気分でいっぱいであった。告白をするという訳でもないのに。

それでも逃げようとせず、“一緒に乗ろう”と佐和にたどたどしく伝えれば、

佐和は何故心変わりをしたのかすら疑問に思う事もなく、それを素直に喜んだ。

郁人はここで初めて佐和の単純さに感謝するのであった。