「先輩……」


恐る恐る顔を近付けてみるも、起きる気配は一向にない。相当眠りは深いのだろう。

漫画のようにこのままキスしてしまおうか。咲の思考がやや暴走しかけた。

その考えは寸での所で消えて行く。もし誰かがその時来てしまったら、もしこの瞬間に奏が起きてしまったら。

恐らく自分は今まで体験した事もない恥ずかしさで、失神してしまう。そう咲は感じたのだ。


「……湯浅君、電話早く終わらないかな」


咲はまたそう呟きながら扉を見る。彼女にとってはわずか1秒でも長く感じる2人だけの空間。

早くこの空間から脱出したい。でも脱出したくない。2つの気持ちが心の中で揺れ動く。