「湯浅君! ちょっと来て!」


資料集を握りしめた千智は周囲の驚きを気にせずに大声で蛍人を呼び、

彼の腕を強引に引っ張って人気のない場所へと連れて行った。

そこは蛍人がよく殴られたりする場所でもある。

千智は何も知らないとはいえ何故こんな場所に連れて来るんだと、蛍人は心の中で千智に怒りを覚えた。


「武野さん……、掃除サボるとか良いの?」

「そんなのはどうでも良いの! これ、湯浅君のだよね? 中庭の溝に落ちていたの。
何でこれがこんな場所にあるの? ここで勉強していたって言われても信じないからね?」


握っていた資料集の名前の欄を見せながら、妙に落ち着き過ぎている蛍人に千智はまくしたてるように言う。

蛍人は少し何かを考えた後、まるでこれなら分かってくれると言わんばかりのいい訳を言い出した。