それからしばらくは国立との接触もなく、授業もいつもと変わらず問題なく行われていた。
 実際、私が思うにレンは気にしすぎじゃないのかな?
 葉菜自身、国立に狙われていたのが自分だっていうことにいまだに納得できていなかった。
 委員長に隠された秘密を暴くのと、年下の小娘を追い掛けるのとどっちが興味深いだろう?
 私だったら委員長の方を取るけどな。
 男性にとって、自分の美しく整った顔が魅力的に映るのを葉菜は忘れていた。
 ぼんやり考えにふけりながら歩いていた帰り道、途中まできたところで足を止めた。

「あ」

 ちらっと後ろを振り返った。数メートル離れたところで、同じように足を止め、片手に開いた参考書からわずかに顔を上げたレンがこちらを見ている。回れ右をした葉菜が学校へ戻るため駆け出す。レンの横を通り過ぎる時、忘れ物! 小さく伝えた。
 明日の授業までに仕上げなければならないレポートを書き途中のまま、机にしまったのを思い出したのだ。レンは置いていくことになるけど、下校時間だし国立に会うこともないだろう。それにすぐに戻るつもりだ。
 息を切らしながらクラスに戻って驚いた。窓側の一番後ろの席。葉菜の机の中を物色するように屈んで、中を引っかき回している姿が見えたからだ。

「誰?」

 勇気をだして声をかけた。自分の作業に夢中になっていたらしいその人物は突然の声に身を強張らせ、ぱっと振り向いた。