「危険って……?」

 レンはなにがいいたいのだろう?

「あの、大丈夫だったよ、レンのことは話題にのぼらなかったし」

「お前の身に降り懸かっていた危険についていってるんだ」

 私の身の危険?

「あいつはこの前からお前のことを、いやらしい目で見ている」

「それは勘違いだよ」

「勘違いしてるのはお前のほうだ」

 葉菜の鈍感さには呆れてため息しかでない。

「現に今だってもう少しオレが行くのが遅かったらどうなってた?」

「………別にどうもなってないと思うけど」

 一緒に資料探してただけだし、変な雰囲気ってわけでもなかったし。ただ……体が触れ合うぐらいそばにいることは不快だった。先生から離れることができてどこかホッとしている自分がいるのも確かだ。けど、直接何か言われたわけでも危害を加えられたわけでもない。確かな証拠があるわけじゃないのだ。

「国立がずっと見てたのはレンだよ?」

「お前はどこまで鈍感なんだ!」

 少しも疑問を抱かずに、国立が見ていたのはオレだという。とうとう怒りを抑えきれなくなったレンが叫んだ。

「鈍感はそっちのほう―――」

「うるさい! 黙れっ」

 これじゃいつまで経ってもどうどうめぐりだ。葉菜の言葉に手をふりかざして遮る。己を落ち着けようと大きく息を吐いた。怒りで一層青さを増した瞳を彼女に向ける。

「いいか、あいつが狙っているのはオレじゃない、お前だ。今後絶対、奴には近づくな。何か頼まれたら適当にごまかせ。オレの側にいろ」

 静かな深みのある声が言い聞かすようにゆっくりと吐き出される。
 私の危険とレンの怒り、どう関係があるんだろう?

「もしかして心配してくれてるの?」

「自惚れるな。お前はオレの召使いなんだぞ? オレの所有物に、他の奴が勝手に手を出すのが我慢ならないだけだ」

 はっきりそう告げると身をひるがえしてさっさと歩いていってしまった。
 一人取り残された葉菜は精一杯の気持ちを込めて叫んだ。

 私は物じゃないんだから!

 恐いから心の中で、だけど。