「三森さん!」

 突然名前を呼ばれて驚いた葉菜が入口を振り返ると、息を切らした委員長、レンがいた。かなり焦っていたのかメガネはずり落ちそうだし、長い前髪は乱れまくっていた。

「な、なに?」

 答えながら国立が自分の真後ろで同じように驚いてレンを見ているのがわかった。葉菜の視線に気付いた国立がさりげなさを装って彼女から離れる。

「お友達のあきさんが大変なんです!」

 ずかずかと近づいてくると腕を取られた。

「緊急事態なので彼女を解放してくださいますね? さ、三森さんこちらです」

 国立に口を開く隙を与えず葉菜を引っ張っていく。足をもつれさせそうになりながら前をいく長い足に懸命についていった。

「ねぇ、あきがどうしたの?」

「………」

 聞こえてないのかレンは振り向かない。

「ねぇってば!」

「………」

 友達になにが起きたのか早く情報が欲しい葉菜は、心配から苛立っていた。
 人気のない裏庭にでてようやくレンは足を止める。

「あきは? あきはど……どうしたの?」

 友達を心配しての葉菜の後半の言葉はレンに向けられていた。そのただならぬ雰囲気に葉菜は目を見張る。眉間に深いしわを寄せ、憎しみを込めたような強い視線がメガネ越しに睨んでいる。どうしてなのかよくわからないけど、とにかく猛烈に怒っているみたいだ。その様子は目だけで人を射殺せるんじゃないかと思うほど恐ろしくて、逃げ出したくなった。

「あの、あきは……」

「あの場を離れるための口実に決まってるだろう」

 冷たく響く声。腕を組んで立ちはだかるレンは近寄り難い威圧感を醸し出していた。

「………」

 どう対応していいものか? いままでこんなレンを見たことがなかった葉菜が口をつぐむ。

「あいつとふたりきりで危険だったっということが、お前はわかってるのか?」