数日後―――。
 言付けを頼まれたらしい生徒が、

「国立が呼んでたよ?」

 いわれた葉菜は首をかしげた。
 国立? こっそり脇見するとレンが、ビン底メガネの向こうからいぶかしげな視線を送ってきた。
 大丈夫。レンの秘密は守るから。見つめ返した葉菜は小さく頷いた。

 なにやら自信がある様子で頷いた葉菜を、あいつわかってるのか? ますます深刻な顔をしたレンが、教室を出ていく背中を見送る。そこで別の視線を感じたレンが視線を戻す。葉菜の前の席の友達あきが、じっとこちらを見ていた。
 なんだ?


 資料室に呼び付けられた葉菜がドアをノックしてそっと開けると、国立は棚の中に手を突っ込んで資料を探しているようだった。

「あのーなんですか?」

「ああ、次の授業で使う資料を探して欲しいんだ」

 特別仲がいいわけでもないし、日直ってわけでもないのになんで私が手伝わなくちゃいけないの?
 もしかして、レンについてなにか聞き出そうって魂胆?
 中に入ることなく入口で躊躇っていると棚から顔を上げた国立が手招きしている。しぶしぶながらも近寄っていくと、

「古い資料なんだが……」

 これを探してくれと、メモを渡された。そこに書いてあるタイトルを棚の中の様々な分厚さの資料の中から探し始める。ただでさえ狭い資料室の窓側は机が置いてあることもあって人ふたり分の広さしかない。ふたり並んで棚を見ていると国立の肩に自分の体が何度か触れる。その度にレンのときには感じなかった不快感が、葉菜の中に込み上げた。

「役割分担して探したほうが早いかもしれないな。私は上から見ていく。三森は下の棚から探してくれ」

「はい」

 よかった。これで肩に触れないで済む。ホッとしてしゃがみ込んだのもつかの間。不意に葉菜の上から影がかかり、後ろに人の気配。となりで上の棚を見ているはずの国立の姿が見えない。耳元にかかる息遣いにハッとした。普通ならこんなに近く感じない。