5時限目。
 黒板の上に大きな地図を広げながら、国立先生が熱心に解説しているのも、葉菜の耳には入ってこなかった。
 どうしてああも傲慢なんだろう。自分の意にそぐわなければ自分の権力で押さえ付けようとする。自己中だし、自分中心に地球が回っていると思ってるに違いない。それより全世界が、自分の足元に平伏してる気になってるんじゃない?
 なんでもかんでも思い通りになると思ったら大間違いなんだから。だいたい勝手に召し使いっていわれてるだけで、私は認めてないんだかんねー!
 こっそり心の中であっかんべーをやる。
 だけど、悔しいかな咄嗟の機転には脱帽する。相手がレンじゃなかったらあの窮地をどうやって抜け出せたことか。機転というより悪知恵が働く? 敵に回したら恐いかもしれない……。
 それに重い地図も、私の代わりに持ってくれた。もしかしたらほんの少し、ほんのちょびーっとだけ、優しいのかも。
 ノートを取るのも忘れてぼんやりと黒板を見ていた葉菜は、先生の視線がやたらこちらを見ていることに気づいた。ぼうっとしているのバレてるのかな? 慌てて黒板に書かれた文字をノートに写す。
 背中が視線を感じてピリピリする。文字を書く手を止め、何気ないふりをして顔をあげた。
 今も、ほら。
 神経質そうな顔がじっとこっちを……。
 そこまで考えてチラリと丁寧にノートをとっているとなりのレンを見た。
 もしかして私じゃなくてレンを見てる?
 席がとなりだから、先生がどっちを見てるのかはっきりとは分からなかった。
 やっぱ鍵を閉めていたのバレたのだとしたら、先生がこっちを見ている理由になる。
 レンはマークされちゃまずいんだってば!