キリトside

梓が落ち着きを取り戻し、涙もとまる。

梓が自分を責めているのは分かるけど、梓のせいじゃない。

誰も…悪くないんだ。

「キリトくん、輝くん、ちょっといいかな。」

レイのお父さんが俺たちを呼ぶ。

「なんですか?」

「レイのことなんだけど、感染症の検査をしてね、大丈夫だったから普通の病室に移るんだ。そこで、頼み事があってね。」

レイのお父さんから頼み事なんて滅多にない。

少し、緊張した。

「レイの近くにいてやってくれないか。いつ目を覚ますか分からないが、傍にいてやってほしいんだ。」

グッと下唇を噛んだ。

そんなの、レイのお父さんとお母さんが誰よりも近くにいたいはずなのに。

それを、俺たちに頼むなんて…。

「はい。俺たちが、近くに必ずいます。」

「輝……。」

輝はスッと前だけを見ていた。

なんで、そんなに強くいられるんだよ。



レイが事故にあって一週間がたつ。

今だに目は覚まさない。

毎日病室に来ては、話しかけたり手を握ったり。

だけど、明るくなかった。

輝も梓も俺も、明るくなれなかった。

「レイ……。ごめんな。早く、目覚ましてくれよ…。」

「俺、花の水変えてくる。」

輝が花瓶を持って行こうとしたその時、レイの目が………覚めた。

ゆっくりと瞼を開け、キョロキョロと辺りを見回す。

「ひ、ひひひひ輝!め、目が覚めた!」

慌ててこちらに戻ってくる輝。

レイと目が合う。

「レイ…よかった。よかったよ…。」

「だ……れ…………?」

人工呼吸器の中で発したレイの声は、かすれていたけど聞き取れた。

だれ?

誰って、俺たちのことか?