全然好きじゃない。
長身イケメンの金澤夏暉(カナザワナツキ)の
ことなんて、
─恋愛対象としては─
今日まで気にも留めていなかったのだ。


『え……違った??
俺、結構自信あったのに。』


「な…なんで自信あったんですか。
だって私、今日初めて
金澤くんと話したのに…。」


『だって俺と目、合いすぎでしょ。』


確かに、金澤くんを眺めていたのは
本当である。

そして…目が何度も合ったのも、
本当である。


「だ、だからって……」


『…まだ、』
「まだ、わからない??」


学校から駅までの道中だった私が
振り向くと、部活着で下校する…


「金澤くん!?」

「お疲れー。ごめんね、汗くさくて。」


そういうと、金澤くんはおどけて、
バスケ部2年の黒い練習着を
裾からたくし上げて嗅いでみせた。

練習着には、私たちの高校の名前、
桜米内(さくらよない)が、
「Sakura Yonai」として欧米的な字体の
ロゴで描かれている。

私は、美術部の帰りに
バスケ部の練習を覗くクセがあったから、
思わずそのロゴに、
練習中の彼の姿を思い出して、
つい見とれてしまう。


「なーに見てんの。」

「え、」


ふと感じた頭部への感触に驚いて
顔を上げると、金澤くんが
爽やかな微笑みを湛えていた。


「一緒に帰らない??」


そう言って彼は、少しだけ照れて
歯を見せた。
それから、私の頭をくしゃ、と撫でた。


「駅、その、上桜米内だけど…」

「ん、俺も同じだよ。」


行こ、と言うと彼は
ふいっ、と前に向き直って
どんどん先に行ってしまうから、
さっきの温度が余計に染みて
頬が紅く熱くなってしまう。


「早くしないと電車行っちゃうよー。」


これはゆめでしょうか。
彼は王子様でしょうか。