わたしはそれが嫌だった。
わたしは彼らよりも年下で、一回りも二回りも歳が離れている。
彼らのような仕事柄の人間は
『仕える者』としてのプライドはあっても、『年上の者』としてのプライドはない。
そんなもの、彼らにとっちゃ仕事の邪魔にしかならないのだ。
さすがにそこは、わたしが望むようにはならないらしい。
「今行くわ」
鞄を手にして立ち上がると、灰くんに腕を引っ張られた。
「灰くん…?」
「忘れるなよ。
瑠美は綺麗だ。
誰よりも、魅力的で…美しい」
灰くんはわたしの目をじっと見つめたまま
真剣な口調で言った。
曇りのないグレーの瞳は、透き通っていて
吸い込まれそうだった。
『この美しい瞳が、絶望の色に染まったら
どうなるのかしらね…?』
わたしの中の『本物のわたし』が
ポツリと呟いた。
わたしは、思わず身震いをして、ペロリと下唇を舐めた。
『きっと…とても素敵ね』
「夜になっても…同じことが言えるかしら…?」
本物のわたしが、少し顔を出してきた。
灰くんの表情に、焦りが見えた。
「フフ…夜が楽しみね…」