「でも…歌えなくなったんだ。」

「え…?」

「喉に…悪性の腫瘍が出来て…声帯を切除しないと助からないって…。」

声帯を切除するということは、声を失うということ…。


ボーカルで

歌うことが大好きで

大好きな人の作った曲に
自分の作った歌詞を添えて

大好きな人の隣で歌うこと

それが出来なくなるんだね…?


いつのまにか、あたしの瞳からは大粒の涙が頬に道を造っていた。

「夢か命か、あいつはギリギリまで、天秤にかけようのない選択肢を無理矢理天秤にかけた。」

どんなに悩んだだろう。

どんなに苦しんだだろう。

どんなに辛くて悔しかっただろうか。

量りようのない選択肢を、どれほどの涙を流して選んだのだろうか。

綾瀬に想われる彼女は羨ましいだなんて、恨めしいだなんて思った自分が恥ずかしい。

どれほどの痛みを、彼女は負ったのだろう。