制服に着替えて髪をいつものハーフアップにしたら、部屋を出た。
「おはようございます、紫緒様。」
そしてダイニングルームに行くと、私が生まれるずっと前から三国家に仕えてきたばあやがいた。
「おはよう、ばあや。」
私も笑顔で返す。
ばあやはこの家でもっとも長く仕えているベテランで、私がこの家で最も信頼する人だ。
「お嬢様、奥様と旦那様はまだパリでお仕事をなさっているようですので、いつお帰りになられるのは分からないとおっしゃっておりました。」
「うん、わかってる。」
私の両親は仕事一筋の人たちだから、昔から私の世話はばあやか家のメイドにすべて任せてきた。
だからむしろ両親がいた方が私にとっては息苦しい。
「しかしだからと言って毎晩毎晩遅くまで出歩いているとは感心いたしません。」
いつもの穏やかな口調でありながら、少し眉間にしわをよせるばあや。
「大丈夫よ、お金はそんなに使っていないから。」
お金のことを言ってないとわかっていても、そう答える私。
「紫緒様、私はお金のことを言ってるのではありません。紫緒様のことが心配で言ってるんです。夜の街は危ない、と何度も忠告してるではありませんか。」