「よ~し唯、こっち来い。」
洗い物が終わった、と言っていた空くんをカウンターのところに手招きをするおじさん。
「自己紹介しろ。」
なにをするのかと思ったら、いきなりそういうおじさん。
本当なんなんだ、この人は。
「俺は瀬名理人、このバーの店長をやってる。よろしくな。」
おじさんは瀬名さん、っていうのか。
「九条唯斗です。よろしくお願いします。」
唯斗くん、っていうのか。
「素敵な名前ね。」
唯斗君にそういうと、あ、ありがとうございます、とどもりながら言う彼。
「で、お嬢ちゃんの名前は?」
瀬名さんに話を振られて気づいた。
私が今三国、と名乗れば三国財閥に関係のある人だっていうのがばれるだろう。
少なくとも瀬名さんには絶対に。
そんなことはあってはならない、と思い、
「紫緒です。」
私はそう言った。