『私なんか消えてしまえばいい……』


狭くて暗い部屋で、愛葉依(メバエ)と名付けられた少女はきつく目を閉じる。


少女は愛が芽生えると言う意味があるこの名前が大嫌いだった。


そして愛葉依は学校の中でいつも独りだった。


声を掛ける同級生はいるが、愛葉依を便利に使おうとする。


それを知りながら笑顔で答える愛葉依は『都合のよい人間』としてしか見られず、思春期特有の悩みを抱えても誰にも相談が出来なかった。



それは教師とて同じだった。

真面目な少女は与えられた使命を遂行しようとそれに向かって全力で取組んだ。でも、不器用な愛葉依の作業は遅く雑だったので教師からの嫌味三昧の日々が続いた。



いつの日も少女の行動を面白がっては、同級生や教師たちはこぞって声を掛けた。


家に帰ると残業で遅くなった母親がどこかの出来合い弁当をぶら下げて帰ってくる。父親はいつからか姿が見えない。


そんな母親を思い、台所に立つが母親は材料費が勿体ないからと愛葉依の行動を罵った。


まだ子どもの愛葉依の心は歪み、張り裂け、毎日悲鳴を上げていた。


『死んでしまおうか………』


カッターの刃をゆっくりのばす。


誰からも『死』への恐怖を教えてもらえずにいる愛葉依は命さえ断てば楽になれる。そう思っていた。


でも皮膚に当てた刃物は鋭く光り、赤とも黒とも言えぬ液体が出るだけだった。



誰も何も少女を救えず、闇は深く大きく広がって少女の身体はいつしか鳥のように大空へと舞った。



その人生は輪廻転生となり繰り返されることも知らずに、愛葉依は命を絶ったのだった。



=fin=



『自分』との接点はあまりありませんが、何となく繋がってます。