《私は、あなたが好き》

20年経った今でも、その言葉が心を支配する。



私を愛してくれる家族に、後ろ髪を引かれながらも消えない想い。



『私の人生は、本当にこれでよいのだろうか…』


流れる景色にため息をつきながら、列車の規則正しいリズムに身体を預けた。



私は、今から懐かしい故郷に向う。



…………

「いいよ、行って来いよ。俺も休みだし、2日くらいなら子ども達と相談しながらなんとか生活してけるだろうから」


…………



子どもたちの夏休みに入った頃に届いた同窓会の案内状。


行けるはずがないと、それを無造作にテーブルに投げて置いたのを夫が手に持ってそう言ったのだ。


車窓の風景に癒されながら、その時の夫の顔を思い出していた。


『あの人、いやに優しい顔をしていたなぁ……』

ここ最近、いつも仏頂面しか見ていないから少し驚いたのだった。


そんなことを考えていると、電車は音を変えトンネルへと飲み込まれて行っていた。


向かいの窓ガラスに映る自分の顔。


疲れきっていて、まるでおばあさんのようだ。


『あの人の事、とやかく言える立場じゃないわね』


40を目の前にして思う自分の年齢に少し溜め息が出た。


目を閉じ、そしてゆっくりと目を開けた。


その時に見えた、今回会えるはずの彼の顔。



彼も、変わっているだろうか?


こんなおばさんに話し掛けてくれるだろうか……


家族の顔が、流れる緑にチラチラと映る。



でも、高鳴った胸のドキドキは止まらない。



そして、列車は故郷の駅へと静かに停まった。



=fin=