「Kiss、しよっか」
私の右ストレートが、彼の右手に決まった瞬間にきたストレートなこの一言。
「?!」
拳は彼の手の中に包まれ、私は身動きを取れずにいた。
「な、なに言っちゃってるわけ?」
半笑いでそう聞き返す。
「俺とじゃ………いやか?」
じっと見つめる真っ直ぐな視線。
「嫌って………うちら、友達じゃん」
目を泳がせながら下を向いた。
『ドキドキするじゃん……なんなんだよ、今日のこいつ』
拳も戻せないまま下唇を噛み締めた。
「………!!!」
腕を握られた私は彼の胸の中にすっぽりと収まっていた。
「…………俺」
抱きしめる彼の声が上擦っているのがわかる。
「いつも、おまえのストレスの為に手を貸してるけど、いい加減に俺の気持ちもわかれよ!」
彼は耳元で力強く、でも私にだけ聞こえるようにそう言った。
『……私』
気持ちも声も言葉にならない。
ただ、彼との出会いと今までの関係が頭の中でグルグルとしていた。
「あ〜〜、やめやめ!」
急に身体が離され私はまた一人になってた。
「俺様………らしかないな」
顔を上げると彼は笑っている。
私は呆気にとられて彼を見つめた。
「今の忘れてくれよ」
ドキマギする心臓を抑えるのがやっとな私。
「………いいよ、べつに……」
俯き小さくそう言った。
「私も……好きだったんだもん……」
「えっ?」
消えそうな声に耳を近付ける彼。
「だから……Kissしようよ」
さっきまでの戸惑いは彼に移った。
長く長く友達でいた彼とのぎこちないこの空白。
二人だけの秘密の場所で、二人だけの秘密の会話。
さっきまで夕日だったのに、今はお月様が優しく金色に輝いてる。
「これからも、ずっと一緒だからな」
初めてのKissは、淡い恋の味だった。
=fin=