祖母に対してそこまで物をねだったのは初めてだったと思う。


祖母は、やはり駄目だとしか言わなかった。


もう一人の覆面を買って貰えない子供は、原田宏という名前で兄弟が七人もいた。


いつも薄汚れた服を着ていて髪も脂ぎっていた。


原田は、皆からバイ菌等と呼ばれていたし、余り相手にするやつも居なかった。


単純に貧乏だったのだろうと思う。


祖父が仕事から帰って来ると僕は祖父に覆面をねだったが、祖父は笑いながらそんな物が無くても負けるなとだけ言い取り合ってくれなかった。


僕は、祖父なら分かってくれるだろうと思っていた為にショックを受けた。


僕と原田は、覆面が無くてもプロレスごっこをしていたが、周りの子供がだんだんと僕らを避けるようになっているのを感じて嫌な気持ちになった。


僕は、祖母にクラスで二人だけ覆面がないんだという事を夕食時にぼそぼそと話した。


祖母は、何も答えてくれなかった。


たまに電話が掛かってくる両親にはその事は言えずにいた。


原田と僕は特に親しくなかったが、覆面を持ってない為に二人でプロレスごっこをすることが、多くなっていた。


原田は、無口だったがプロレスに関してはテレビをよく観ていてプロレスラーについて語る時だけは熱心だった。


無口だが、だんだんと僕らは気が合うようになっていった。