「あたしを妻にすれば、あんたに長の座が転がり込んでくる。

 わかりやすい話だね。

 でもあたしは、誰も夫になんてしない。

 誰も子の親なんて選びやしない。

 こんな処くんだりまで来てご苦労サマ。

 でも、あんたの労力なんてただの無駄よ」

 洞を吹き抜ける風のように、喉が鳴る。

 じっとりと汗ばんだ身体が気持ち悪い。

 それでも重たい腕を上げて、震える指で開けっ放しの扉を示す。

「出て行け」