どうしてここには私一人しかいなく、

私はいつからここで働いていたんだろう。

いつからここにいて、どうして働き始めたのか。

その記憶は、ぽっかり失っていた。

「あっ!」

ポン、と手を叩く子供。

混濁しかけた思考から逃れて、なあにと声をかけた。

「お母さんが、お姉ちゃんみたいなったことがあるって言ってたよ?」

「それ、ホント? じゃあ、どうやって治ったのかな?」

「……えっとね」

「『自分で何とかするしかない。これは自分でしか治せない』だって」

「……自分でしか、治せない?」

「うん。『みんなかかる病気だから、その名前覚えておいてね』って言われたよ?」

「病気? そんな病気、あるの?」

「お母さん、言ってたよ」

『それは、恋の病だから』