「……放課後、すぐに女子達に捕まっちゃって屋上に閉じ込められたの。あの日は雪が降る日だったからとても寒くて。」
「那由多。その……原因って言うのは……。」
「実はねその日……崇から義理チョコ貰ってたの。それを……君にあげるチョコだって勘違いして君に受け取ってほしくなかったんだと思う。」

 那由多は複雑な顔で紅茶を飲んだ。


「そして姉と母親を失った。その時の大きなショックで私は母親の事を忘れてしまったの。私に残っているのは姉と……恐怖の記憶。北條悠紀乃と呼ばれる度に何度も思い出すから……名前を変えて転校して姿を消したの。」


「でも何で……。」
「天都君、それはゆっくり話すからガトーショコラを食べてごらんよ。美味しいから。」

 言われて気が付いた。冷めきってしまったガトーショコラを薦められるままに食べる。


「……おいしい……。」
「ね?まぁ……私が戻ってきたのは毎年二月十四日の事を思い出すからだよ。ここで決着をつけないと全てが終わらないような気がして帰ってきたの。」


 那由多はそう言った。全てが終わらない……。九年間も傷付いた心を癒すために彼女は帰ってきたのだろうか。そう思うと疑問が生まれた。

「……俺がいると全てが終わることはないと思うけど……。思い出す前に蒸し返さない?」
「……そうなんだよね。思い出すのは嫌なんだけど天都君は何も悪くないから。」