「……九年前……。私と母親、そして姉と三人でここに暮らしていた。父親とは離婚していて経済的にも苦しい生活だったけれど毎日楽しかった。でも……小学校入学と同時に姉の入院が重なって私は休みがちだったからクラスで孤立していたの。」

 那由多はガトーショコラをつつきながらそう言った。俺は黙ってその話を聞いていた。


「そして行事などで俺と一緒に行動したりすることが多くなった?」
「うん。初めは女子達から嫌味を言われる位だったけれどどんどんエスカレートして傷付くようになった。天都君と居たら私が壊れていくって分かっていた。」
 

 そこで那由多はガトーショコラを食べた。


「……だったら何で……。」
「姉と母親を心配させたくなかった。それに二人の存在が私の心を支えていたし、何とか頑張ろうとしたの。でもそれは二月十四日。その日に壊された。」


 二月十四日……。彼女にとって悪夢の日だ。彼女の誕生日でもあり、姉と母親を亡くした日だ。