「……天都君の事を?」

 那由多はちょうど読書しているところだった。崇は頷く。


「それは……。」
「……那由多……。」
「崇。過去に囚われてるのは分かってるよ。でも一度傷付いた物は取り戻せない。」

 那由多はそう言った。私はかつてこの町にいた。小学校一年まではこの町で育ってきた。そして姉と母の三人で幸せな毎日を過ごしていた。でもそれはあることをきっかけに失ってしまった。


「那由多はまだ隠す気なのか?」
「……いつかは言うつもりだよ。でも決心できない。」


「言ってしまって関係が壊れたとしても俺は変わらないでいるから。いつでも相談しに来いよ。」

 そう言って崇は帰っていった。那由多は読書していた手を止めてため息をついた。