「食らえぃ!」

 平八郎が、再び刀を上段に構え、気合と共に振り下ろす。
 同時に後ろから、男が刀を突き出した。

 ぱっと、花火のように血が飛んだ。
 団子のように固まって動きを止めていた三人のうち、平八郎の前の男の首が、がくりと後ろに垂れた。
 どさ、と仰向けに倒れた男は、顔が半ばまで割られている。

 支えがなくなり、よろりとよろめいた平八郎の腹からは、背に密着した男の握る刀が突き出していた。
 がくりと、平八郎が膝をつく。

「死ね!」

 男が引き抜いた刀を振り上げ、さっと振るう。
 咄嗟に平八郎も刀を相手の首目がけて突き出した。

 ぶわ、と水鉄砲のように視界が赤くなる。
 首筋が熱くなり、平八郎の視界がぐるりと回る。
 側頭部に衝撃があり、自分が地に倒れたのだとわかった。

「ああああ!」

 熊之介の声と、どさりという音がし、しん、と静寂が訪れる。
 平八郎は耳に神経を集中した。

 遠ざかっていく足音も聞こえないということは、誰もここから動いていないということだ。
 すなわち、全員討ち取り、討ち取られた、ということ。

 ほ、と平八郎は息をついた。
 じわりと喉の奥から、血の味が広がる。

 国境はすぐそこだ。
 姫君は無事に逃げおおせただろう。

---姫様……。約束……守れませなんだ……---

 約束、と差し出された、姫の白い小指を想う。
 その指に己の小指を絡ませることは出来なかったが、『きっとすぐ追いつく』と言った言葉も守れなかったことを詫び、平八郎は目を閉じた。



*****終わり*****