今日もみぃくんはよく行くカフェにてお気に入りのキャラメルラテをチマチマと飲みながら店内にいる女の子を物色している。
みぃくんはいつだってそう。
私が隣に座っていようがお構いなし。
それで気に入った女の子がいれば直ぐに声を掛ける。
もちろん、逆に声を掛けられても決して拒まない。
みぃくんはモテる。
そこそこ身長もあるし全体に細身ではあるけれど肩幅なんてガッチリしていてトータル的に見てもスタイルが良い。
顔ももちろん、申し分ない。
スッと通った鼻筋に引き締まった唇そして切れ長の目。
一瞬、女の人かと思ってしまうくらい綺麗な顔をしている。
少し長めのサラサラとした髪の毛は今は金髪だ。
みぃくんは髪の色をよく変える。
けれど最終的にはいつだって金髪なのだ。
どうして金髪にするの?って聞いたら。
「女の子に目立っていいじゃん。」
って言ってた。
そしてその美しい金髪をサラサラとさせながらまた新しい女の子を探すのだ。
ある時、みぃくんが真面目な顔して言った。
「俺さぁ、前世はイタリア人だったんじゃないかな。だから女の子見るとつい声掛けちゃうと思うんだ。」
みぃくんはイタリア人じゃなくてイタい人(じん)だと私は思う。
みぃくんに初めて会ったのは私が大学に入って直ぐの頃だった。
「ねぇ、宇宙の端っこって何処にあるのか知ってる?」
キャンパス内を歩いているとベンチに寝転がったみぃくんが突然声を掛けてきた。
「えっ?」
聞こえないフリしてそのまま行ってしまえば良かったのに、つい反応してしまった。
どうしてかって言うと私もずっと同じ事を考えていたから。
「ねぇ、宇宙の端っこ、分かんない?」
相変わらずベンチに寝転がるみぃくんは男の人にしちゃ綺麗な指先をひらひらとさせて私に手招きをする。
「えっと……」
仕方なくベンチ際に近寄ると
「ねぇ、キミはなんでそんな何でも分かったような顔してるの?」
といきなり失礼な事を言われた。
正直、ムカついた。
なんで初対面の人にそんな風に言われなきゃなんだ?
「私は疑問を感じたら何でも調べます。疑問を疑問で残してても何も解決しませんから。後、宇宙の端っこについてですが、それは人の思考と同じと考えます。ではーーー」
その場を立ち去ろうとしたら
ガシッ
ひゃぁっ
手を掴まれた。
「な、何するんですかっ。」
「その、人の思考と同じって何?」
「はぁ?」
「いや、だから人の思考と宇宙の端っこ、何で同じなん?」
この人、やばい人なのか?
そもそも顔はいい顔してるけど大学生にもなってこの金髪はないでしょ?
もしかしたらキャンパス内に潜り込んでる不審者とか?
通報するか?
いや、今は兎に角、上手くやり過ごしてこの場から立ち去ろう。
「人の思考ってこっからここまでって区切りないじゃないですか?どこまでも限りなく広がる。つまりは宇宙も終わりはないって事なんだと私は考えます。ではーーー」
今度こそ掴まれた手を振り払い行こうとしたらーーー
「ふうん。今までで一番まともな答えだな。まっ、スッキリ感はイマイチだけど……ねぇ、俺とトモダチになってよ。」
そう言うと漸くベンチから起き上がりそのまま私の手をブンブンと振りながら笑顔で言った。
「今から俺の事、みぃくんて呼べよ。なっ。」
コイツ、イカれてる。
あの時、何で必死に逃げなかったんだろうなぁ………。
結局、断るとなんかされるんじゃないかって思ったら怖くてNOとは言えず、つい首を縦に振ってしまった。
その時から私とみぃくんの奇妙な関係は始まった。
出会った時の事をつい思い出しながら相変わらず女の子を物色するみぃくんを見てこっそりため息をつく。
「どうしたの?ため息なんかついて。幸せ逃げちゃうよ。」
「何でもない………。」
こっそりため息ついたの気づかれた。
なんでなのかな………。
他の女の子ばっかり見てる癖にこうして私のちょっとした事にも気付いてくれるみぃくん。
みぃくんはズルい。
みぃくんはいつだって言う。
「トモダチって良いよな。」
「なんで?」
「ずっと一緒って感じじゃん?」
そういうものか?
トモダチでも離れていってしまう関係もあるけどな。
高校卒業する時とか絶対また連絡するからとか言っててもお互いに新生活始まっちゃったら少しずつ疎遠になったりとかね。
「だけどさーーー」
「ん?」
「俺のトモダチはナルだけだよ。」
みぃくんはやっぱりズルいと思う。
ううん、残酷だと思う。
カフェを後にして駅までの道のりを二人で歩く。
幸いにも今日は目ぼしい女の子はいなかったようだ。
やはりみぃくんが他の誰かといる姿を見るのは辛い。
そうーーー
実は私は密かにみぃくんに恋をしている。
なのにみぃくんはーーー
【トモダチ】という重い重い鎖で私を繋ぎ止める。
この鎖、スパーンと切ることが出来れば良いのにな……。
ふと、みぃくんを見るとまた空を見上げてた。
みぃくんはこうしてよく空を見上げる。
こんなビルとビルの合間に申し訳なさそうに存在するちっぽけな空を
みぃくんは立ち止まって見上げる。
みぃくんにはきっと見えているのかもしれない。
その狭い狭い空の向こうに広がる果てしなく続く宇宙が。
「ナル、俺さぁ、宇宙に行きてぇな。」
「宇宙?」
「うん。宇宙を旅してみてぇな。」
「ふうん。」
みぃくんはこういう事、しょっちゅう言うから近頃の私は聞いてもさほど驚かない。
「そん時はナルも一緒な。」
そう言って私に笑い掛けるみぃくんの金色した前髪が少し陰ってきた陽の光に照らされキラキラと透き通る。
みぃくんそのものが光っているように見える。
みぃくん……
胸が苦しいよ……
このやり場のない思い、どうしたら良いですか?
僕の兄貴は少し変わっている。
いや、
かなり変わっている。
第一、大学3年にもなってあの金髪頭は如何なものかと僕は思う。
就活始まったらどうするんだって話だ。
僕の髪はいつだって黒髪だ。
真面目に見られたいからとかではなく、生まれ持ってのこの真っ黒な黒髪を僕は好んでいる。
僕と兄貴は何から何まで正反対。
いつだって適当な振る舞いで掴み所のない兄貴に対して僕は何でも物事を順序立てて考えなければ気が済まない。
如何にもユルそうな見た目の兄貴に対して見るからに優等生タイプの僕。
好き嫌いの多い兄貴、何でも食べる僕。
派手な服装を好む兄貴、洋服はシンプルで尚且つ機能的なものを好む僕。
どこをとっても僕達兄弟は似ている所がない。
ただ顔だけは似ていた。
とても。
なぜなら僕達はーーー
双子だから。
それとあと一つ似ている所がある。
それはーーーー