…ガチャ
…バタン
…スタスタスタ

「…ぅん。」
誰?こっちに来るの。私しか住んでない筈なのに。

バンッ

「心桜!!!」
びくっ。なんで…?なんであの女が!なんで鍵を持ってたの?なんでここを知ってるの?
ガタガタと震える身体を抱きしめる。
女は、私のもとへ来るといきなり頬を叩いてきた。
乾いた音が部屋に響く。頬はジンジンとした痛みと熱を帯びる。
「…ぁ。な…んで…?」
何が起こっているのか整理が出来ず、ただただ怯える私に
「あんたまだ体売ってないんだって!?ふざけんなよ!なんのために家を出してやったと思ってるの!?」
ヒステリックに喚く女。
「ごめんなさいお母さん。ごめんなさい。ごめんなさい。」
何度も何度も謝る私を殴り続ける実の母親。
やめて。これ以上叩かないで。やめて。壊れてしまう。誰か…助けて。

それからどのくらいたったのだろう。
ほんのりと暖かい光が射し込んでいた窓は真っ暗で、夜だと言うことが伺える。
「…。…。」クスクス
何か、聞こえる。お母さん以外に誰かいるの?
ぼー。っとした頭で、あたりを見回すと母親とニヤニヤと笑う男2人がいた。
私の視線に気づいた母親は、私に衝撃的な言葉をかける。
「おはよう。これから、板垣さんのお店でお金をしっかり稼ぐのよ。」
見開いた目が閉じない。思考回路が止まる。
「ぁ…ぁ…」
私は、全てを拒否するように眠りについた。


・・・・・・・・・・・・・・

…。次に目を覚ますと、周りには誰も居らず知らない部屋のベッドに寝かされていた。
そっか…。私売られたんだ。
「アハハ…アハハハ…フ…ウ…」
私の目からは途切れることのない涙が流れる。
もう、全てを捨ててしまおう。記憶も、何もかも。
全部を無にした私は静かに座っていた。

少しすると白髪混じりのおじさんがニヤニヤと下品な笑いをこぼしながら入ってきた。
「おや。起きたんだね?おはよう。」
もう何も感じない。
「おはようございます。」
私は微笑みながら答える。
おじさんは驚いたように動きを止めた。しかしそれも一瞬で、すぐに私に紙を渡した。
「それには君がするべきことが書かれている。目を通して。」
なるほどね。このとおりに行えばいいのか。
「わかりました。」
その紙には、トラブルの対処法や店のシステムなどが事細かに書かれていた。
全て読み終わるとお礼を言った。
「ありがとうございました。」
「いえいえ。とりあえず名前はアイにするつもりだけどどうかな。」
「アイ…。とても可愛らしい名前ですね。気に入りました。」
アイ…。私には一生似合わない名前。
「そうか。ありがとう。それじゃぁ早速私と寝てどこに入れるか決めるから。いいよね?」
おじさんはそう言いながら私をベッドに押し倒す。
「よろしくお願いいたします。」
こうして私は処女を働く店のトップへ捧げた。
おじさんは10本の指を巧みに使いこなし、私を快感に溺れさせる。
「ぁ…ぁあ。はぁ…ん」
私の声とは思えない甘い声が出る。
そして絶頂を迎える。…その直前、あの綺麗な顔が浮かんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・

疲れ果ててベッドに横たわる私とおじさん。
「よかったぞ。感度もいいし、外見もいいからAに入ってもらう。」
A。たしか、最高のSの一つした。そんなところでやっていけるのだろうか。不安もあるけど、設備も上の方がいいみたいだし、まぁいいかな。
「ありがとうございます!一生懸命頑張ります!」
「そうしてくれ。伊東!」
いとう?おじさんが誰かを呼んだ。誰だろう。
「はい。Aですね。わかりました。」
ああ、秘書的な感じかな?
「アイです。よろしくお願いします。」
笑顔で挨拶をする。
「ああ。」
「さようなら。」
おじさんにさようならを言って伊東さんに連れられて私の居場所となる場所に向かう。

たくさんの扉を通ってやっと着いた場所は一つの個室。
この部屋に来るまでに同じような扉が並んでいて、一番奥にある所だった。
「ここです。営業時間は18〜23時でいいです。私は受付の奥で待っていますので、時間がきたら呼びにきます。寮へはその後で。では。」
一通りのことを言われてドアの外へ出ていった。