ヘッドホンをつけ大音量で音楽を流しながら繁華街を歩く。

自分以外誰も信じない。誰とも仲良くしない。そう決めてからどのくらい時がたったのだろう。とても長く感じる。自分の声すら忘れている私は、そこら辺で下品な笑いをしながら歩いている輩からすると相当気持ち悪いのかもしれない。
まぁ、どうでもいいけど。
早くこの暑苦しい人混みから抜けたくて足を速める。

家への近道の裏路地に入る。
曲がり角の多い細い道を歩いていると、前に数人のいわゆる ガラの悪いやつ が溜まっていた。
…そこ、どいてくれないと困るんだよね…。どうしようかな…。
戻るのはやだし。かと言ってどいてくださいなんてこと言って目をつけられるのも嫌だし…。
よし。戻るか。回れ右をして歩き出す……はずが、何故か進めない。
…まさか。え。どうしてよ。
私は溜まっていたガラの悪いやつらの中心的存在のような風格を持つ男に腕を掴まれていた。

仕方なくヘッドホンを外す。
「…あの…手を離していただけませんか?」
あれ、私ってこんな声だったっけ?
久しぶりに聞いた私の声は、記憶の声より少し高くてかすれてた。
「…」
え!?無言ってなに?
どうしよう。本格的に困っていると
「お前なんでここを歩いてる?」
上から声が降ってきた。
ていうか、なんでって帰り道なんだけど。ストレスが溜まりすぎてイライラする。
「家への帰り道…。近道だからです。けど、通れないので表に戻るところです。」
ここでキレたらダメだよね。
「そうか。危ないから送る。」
…おくる。
…送る。
…送る!?
は!?予想外の言葉に驚く私。
恐る恐る男の顔を見上げると…。
目が合った。
その瞬間全身に電気が走るような感覚を覚えた。
綺麗な顔…。きっとたくさんの愛を持っているんだろうな…。
そう思いながらも絡み合う視線。
「翠?何やってるの?」
あ。ふと、我に帰った私はすぐさま手を払い除け、
「結構です。」
そう言い残して家へと向かう。


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ガチャ。
慣れた手つきで素早く鍵を開け部屋に入る。
この、私だけの静かな空間でしか心が休まらない。
私は、すぐにでもシャワーを浴びたいという欲求を抑えて冷蔵庫へ向かう。
そして冷蔵庫にヨーグルトとゼリーとミネラルウォーターを詰め込み、これで一週間は生きられると安堵する。
早く死にたい筈なのに、安堵してしまう自分が嫌になる。
「はぁ。」
深いため息をつきながらお風呂場へと足を運ぶ。

チャポン

ふぅ。暖かい。目を閉じれば繁華街のキラキラと輝くネオンがチカチカと光る。
あの人…綺麗な人だったな。翠…だっけ。私が人の名前を覚えるなんて。本当にどうしたのだろう。きっと、疲れてるんだ。今日は早く寝よう。
手早く洗い、お風呂場を出る。
お気に入りのふかふかのベッドへダイブし、横になる。
目を閉じればすぐそこに闇が。
私は、闇へと吸い込まれていく。