「これとこれは倉庫に預けて…真子ちゃん、ホームベーカリーってある?」
「うちにはないです」
「じゃあ持ってこうかな。美味しいんだよ、焼き立てパン」
「わあ!楽しみです」
こんな会話をしながら、家の中の物を片づける。
近くの倉庫を借りて、必要なものだけ真子ちゃんの家に持って行く。
部屋の中は焦げ臭いけど、幸い焼けた形跡はない。
「兄貴!ここにあるのは倉庫に持ってくやつ?」
隼人がマンションを3往復しながら戻ってきた。
火事で電線が切れたからエレベーターは動かない。
「あぁ、お前も疲れたろ。代わるぞ~」
さすがに倉庫からここの3階までの往復はキツイ。
しかも家具を持って。
どうしても持てない家具は今日の夕方に引っ越し業者さんが手伝ってくれるという話だ。
それまでに持って行けるやつは持って行かなくては。
「まだ平気!あと5往復は行けるよ!」
そう言ってテレビやら棚を持つ。
隼人って小柄なくせに力や体力は結構あるんだよな。
「隼人くん!あたしもいつでも代われるからね!」
真子ちゃんも隼人にそう声をかけた。
「大丈夫だよ!じゃあ行ってくる!」
そう言ってばたばたと階段を下りて行った。
「ったく。そんな急がなくていいのに」
俺がボソッとそう言うと、隣で真子ちゃんが、
「隼人くんは頑張り屋さんだからね」
隼人がいた方を見て優しく笑う。
そんな真子ちゃんを見て、俺はあぁ、と思った。