僕が九条流歌と初めて同じクラスになったのは、高校2年のことである。
小学校から同じ学校にいるのに一度も同じクラスになることができなかったあたり、僕の、九条流歌との縁のなさが顕著にうかがえる。
高校2年にしてようやく。
11年目にしてようやく。
やったぁ、九条流歌と同じクラスだぁ!
九条流歌に、僕の存在を認識させることに成功したのだった──
ここまでの文章を省みると、この物語が、恋愛を中心に動いていくものだと思われても仕方がないように思える。
けれども、違う。
…いや、違くは、ない。
恋愛描写も、ないことはない。
けれど中心ではないのだ。
まぁそう急がないでくれ。
もう少し、九条流歌について語らせてもらいたい。
九条流歌。
くじょうるか。
まず。…勉強が、ものすごく得意。常にテストはオール100点。
しかし。
常に100点を取り続ける九条だが、一度だけ、一問、落としたことがあった。
さらに驚くことに、九条が落としたその問題、僕は見事にパーフェクト解答で、10点ゲットしていた。
10点ゲット。
その問題は、配点が10点だった。どんな問題だったのかは、ここで言うのは控える。
その問題、九条は0点だった。
けれどそれは、問題の方が悪かったと言える。
その時の九条には、あまりに酷な問題であったのだから。
まぁでも。
他は何一つ落としていなかった九条の総合得点は、学年全体で、他の追随を許さぬほどに圧倒的であり、1位の座が揺らぐことはなかったのだけれど。
さて。
九条の説明はこんなもんでは終わらない。
勉強がかなりできる上に──男子に負けず劣らず、かなりの運動神経を持ち合わせていた。
特に陸上競技において、彼女は力を発揮するらしい。
以前聞いた話であるが──中学1年の時。
女子100メートルの部で、県予選をあっさり1位通過した九条は、その勢いのままに、全国大会でも優勝してしまったんだとか。
けれど、どんな事情があったのかは僕にはわからないけれど、それ以降、部活動をやめてしまったらしい。
やめざるを得ない状況に陥ってしまったことだけはきいているのだが…
──うん。
ここまで話せば、大方、九条流歌という人物がどんな人間なのかがわかってきたと思う。
が。
よくあるパターンだけれど、勉強ができて運動もかなりできる女子というのは、さらに外見もよくて、性格もよくて、クラスの委員長を務めている、などという付加価値が加わってくるのだろう。
しかし九条の場合は、違う。
いや確かに、九条流歌が外見もいいというのが僕たちの中では周知の事実であるということは認める。認めるよ?だってもう、そりゃもうすんげー可愛いんだから。可愛い、じゃないか、美人、というのか、ああいうのは。
とにかくもう、美人。
…なのだけれど。
性格がいい、なんて言えたもんじゃない。まして、委員長なんてもってのほかだ。九条が委員長なんてやったら、クラスが崩壊するんじゃねーの?
とにかく。
勉強ができて運動もできて、しかも可愛い──のだが、どうにも人間、長所ばかりではないというのが現実である。まぁ、勉強も運動も完璧という時点で、そこそこ現実離れしているのだけれど。
じゃあなんで、やったぁ、九条流歌と同じクラスだぁ!などと言ったのか。
別に口が裂けたわけではない。
自分の意思。気持ち。本音。
というのも。
あの性格は先天的なものではなく、無理矢理捻じ曲げられたものだと僕は知っているから──
以下、回想。
九条流歌は1年と半年前の冬、つまりは、僕や九条が中学3年生だった冬、受験真っ只中という季節に、両親が離婚、母親が他界している。
両親の離婚。
母親の他界。
受験シーズンではあったものの、目標としていた高校には余裕で合格するだろうと言われていた九条に、受験というプレッシャーなどは微塵もなかった。けれども、その精神を崩壊させるには十分すぎる出来事だった。
そんな九条に対しクラスメイトは──必要以上に優しく接し、気持ち悪いくらいの優しさを向けた──
が。
それが仇となる。
九条は、クラスメイトの優しさに、真っ向から反発した。
「私は別に大丈夫…。あなたたちに優しくされる必要なんてない…」
と。
普段の温厚だった九条は見る影もなく。
冷淡で、冷徹な性格へと、捻じ曲がってしまった──
その時点で、精神がブレブレなのは明らかだったのに。
私立の、もっとレベルの高い高校にいけたはずなのに。
経済的な面を考えて、公立の、僕と同じレベルの高校に入ったのだった。
回想、終わり。
しかしそれでも。
どんな精神状態でも、成績を落とすことのなかった九条は。
高校2年になった今でも、圧倒的学力を誇るーー