【蕾音side】

(帰りたい…)

さっきからそればかり思っている。
もともと無気力な性格だが、ここまで無気力になるのも珍しい事だ。

ましてや、これから高校デビューという華の舞台ともいえる場で思うことではないと思う。
現在、午後2時45分。

「はい、次。」
男の先生の声で我に返ると、周りに座っている生徒の視線が自分に集まっている。
「あ、はいっ。」
心持ち急いで教卓の前に立つ。
「粉川(こがわ)町立粉川(こがわ)中学から来ました、賢咲 蕾音(けんさき りおん)です、よろしくお願いします。」
軽くお辞儀をして、元の席に戻ってくる。

今は、今年度の部活動編成の時間だ。
各々が希望する部活の教室に集まり、ミーティングをしている。
私は、中学から続けてきたバドミントン部に入部することにした。
さっきの男の先生は、この辺りで有名な指導者と評判の顧問・賀川先生だ。
(あの先生若く見えるなぁ…)
そんなことを思いながらなんとなく教室を見回していた。

「じゃあ、次で最後か。」
賀川先生がそう言うと、最後の生徒が教卓の前に立った。


緩くウェーブのかかった黒髪、真面目そうな印象の男子生徒だ。
しかし、私は衝撃で一瞬硬直した。
(なにあれ!?)
その男子生徒の身長は、190cmはあるのではないかというぐらい高かった。
(でかすぎ…)
呆気に取られているうちに自己紹介は進んでいく。

「」