晃一が私を見下ろして皮肉っぽく微笑んだ。

「明梨は兄貴のことを好きなんだと思ってたから、明梨の理想の男性像なんか演じてやるもんかって思ってた。俺は普段の俺のままでいてやるって」
「じゃあ、かわいいって言ってくれたのも、あのぎこちないレディーファーストも……?」
「ありのままの俺。明梨を大切にしたいと思ってるけど、明梨の喜びそうなセリフを言うことにも、喜びそうな行動をすることにも、慣れてないかっこ悪い俺」

 外見こそ普段と違ったけれど、あれは晃一の本当の姿だったんだ。そう思うと、今まで胸の中でモヤモヤと渦巻いていた雲が晴れ、熱いものが込み上げてきた。それになんだか愛しさのようなものを感じて、思わず晃一の背中に手を回した。

 大きくて広い背中。ドキドキするのに安心する。

「かっこ悪いなんて思わなかったよ。嬉しかった」
「ホントに?」
「うん」
「明梨」

 私の背中に回された晃一の手に力がこもり、ギュッと抱きしめられて、私は彼のシャツの胸に頬を預けた。

「なんか……悩んで損しちゃったかな」
「悩ませてごめん。でも、あのデートで明梨が俺に惚れてくれたんなら、のせられた甲斐があったかなって思うけど」