晃一が言って、眉を寄せて小さく笑った。

「イヤなんかじゃなかったよ」

 私の言葉を聞いて、晃一がゆっくりと近づいてくる。

「嬉しかった。でも、悩んだんだから。晃一の理想は私とは真逆だって言うし」
「ごめん。あれは明梨を兄貴好みに仕立てるために言った嘘だ」
「嘘つき。その嘘のせいで、私、あのキスも偽物なんだって思って……」
「思って?」

 私は晃一を見上げた。

「悲しかった。海で晃一と話して、大人になった晃一のことをもっと知りたいと思ったし、電車でかばってくれて嬉しかった。でも、晃一がスーツを着ているからそんなふうに思ったのかもって思ったら、自分の気持ちに自信が持てなくなって……。だから、日曜日、晃一に会いに行ったの。そして試合を観て……服装じゃないんだって気づいた。理想という入れ物じゃなくて、中身の……晃一自身が好きなんだって」
「明梨」

 晃一が手を伸ばして私の腕に触れた。ためらいがちに私を引き寄せて、そっと胸に抱いてくれる。

「あのとき、俺はスーツこそ着てたけど、明梨の理想の恋人を演じる気はなかったんだよ」
「どういうこと?」