「明梨は俺のことは相変わらずただの幼馴染みとしか思ってないのに、兄貴だけは特別な呼び名で呼ぶんだ。それに、兄貴に会ったときは、嬉しそうに頬を染めて笑う。あんな顔、俺にはしてくれなかった」
「私の気持ち、バレバレだったんだ」
「明梨のことはずっと見てたから」
「恥ずかしい」

 過去の恋とはいえ、自分の気持ちが片想いの相手の弟に筒抜けだったなんて。

「だから、同じ大学だってことも、俺は気づいてた。明梨が兄貴のことを好きだと知っても、俺の気持ちは変わらなかった」

 私が何も言えないでいると、晃一が促すように一歩踏み出した。

「俺にとって明梨の笑顔が一番大切だった。だから、兄貴が彼女と別れたって聞いて、今回のデートを利用しようと思ったんだ。俺の理想だと偽って兄貴好みに変身した明梨を、兄貴の前に連れて行こうと思った」

 私はその場にじっと立っていた。晃一が三歩ほど先で足を止めて振り返る。

「そうして明梨と兄貴をくっつける計画だった。それなのに、俺が兄貴の家から帰ろうとすると、明梨は俺とデート中だから送ってくれって言う。もしかして明梨はもう兄貴のことを好きじゃないのか? って思ったら、気持ちが抑えきれなくなって……別れ際、キスしてしまった。あれは、俺にとって本当の、正真正銘、本物の気持ちを込めたキスだった」