それから私も講義のある校舎に向かったけれど、晃一の最後の言葉が気になって、授業にあまり集中できなかった。
晃一は『あれは嘘なんかじゃない』って言ってたけど、デート自体が偽りだったのだから、やっぱり偽りのキスなんじゃないの?
そう思ってしまう。
すっきりしないままようやく四限目が終わった。教室を出ると、扉の前の廊下にもたれて晃一が立っている。私を見て顔を傾けて校舎の外を示すので、彼に続いて外に出た。
「少し歩こう」
晃一に促されて大学の正門を出たが、晃一がずっと黙ったままなので、私も無言で歩道を歩く。
ふと視線を上げれば、青さの増した空と、ハケで掃いたような筋状の繊細な雲が見える。けれど、歩道の緑はまだ眩しくて、こんもりとした木々の向こうに神社の朱色の鳥居が見えてきたところで、晃一が口を開いた。
「あのさ」
「うん」
「俺の理想の女性は、本当はワンピースとヒールの細いパンプスが似合う女性なんかじゃないんだ」
「どういうこと?」
晃一が言ったから、私は無理して、ワンピースに合う慣れないヒールのパンプスを履いたのに。
「あれは……兄貴の好みの女性像」
「誠一さんの?」