そう言いながらも、彼とのキスを思い出して頬が熱くなり、鼓動も速くなる。

「あれは……」

 晃一は言いかけて周囲を気にしたのか、私の腕を軽く押した。

「あっちで話そう」

 そうして私の腕を取ったまま、植え込みの陰にある非常階段の入口へと歩いて行く。そのドアの前で、彼は私に向き直った。

「イヤだった、のかな?」

 またもや至近距離でささやくように問われた。今感じるのは、周囲の好奇の視線ではなく、晃一のまっすぐな眼差しだけ。

「ど、どういうつもりだったのか、教えてほしいの」
「俺はイヤだったのかって訊いてる」
「私の方が先に訊いたもん」

 頑なに晃一を見上げると、彼がため息をついた。

「イヤだったのなら謝る。でも、もしイヤだったのなら日曜日は来てくれないだろうなって思ってたから……来てくれたし、イヤじゃなかったんだと思ったんだ。ごめん」

 あっさり謝られてしまった。でも、

「違う。そうじゃないの」

 言いたいことがうまく言葉にできなくて、私はバッグをギュッと胸に抱いた。

 キスしたことを謝ってほしいわけじゃない。謝ってほしくなんかない。