「三限目は何号館?」
「晃一には縁のない場所」

 私はイライラした気分そのままに無愛想な声で言った。晃一が怪訝そうに小さく眉を上げる。

「なんでそんなに不機嫌なんだ?」

 私は彼に向き直った。

「誰のせいだと思ってるの!?」
「俺のせい? 俺、何か明梨が怒るようなことを言った?」
「……言ってない」
「じゃあ何? 何を怒ってるんだ?」
「わからないから悩んでるし、腹が立つの」
「意味がわからないな」

 晃一に眉を寄せられて、私の心の中のモヤモヤが大きくなった。晃一は何も悩んでないんだ。私一人で考えて悩んでるなんてバカみたい。ホント、バカみたいっ。

「じゃあ、もういいっ」

 気持ちに収拾がつけられず、晃一に背を向けて歩き出そうとした。けれど、一歩踏み出す間もなく、晃一に右腕をつかまれ、反転させられた。目の前にわずかに目を細めた晃一の顔がある。

「よくないよ」
「いいのっ。もう気にしないでっ」
「よくないって」
「いいったらいいの!」

 晃一が小さくため息をついた。

「俺はよくない」
「私がいいって言ってるんだから、もういいの。だから、手を離して」