時は平安、藤原邸。
一刻前に詮子(あきこ)が倒れて目を覚まさないと知らせを受けた吉昌(よしまさ)は終業を終える鐘鼓が鳴ると同時に陰陽寮を飛び出した。
それが半刻前。
急ぎ足で藤原邸に向かい先程着いた。
「吉昌殿」
藤原邸に着くと、詮子の侍女の淡路(あわじ)が待ち構えていたかのように邸から出てきた。
「詮子様は?」
「まだ目を覚まされていません」
淡路は首を横に振る。
別段身体が弱かった訳でもなければ体調不良を訴えていた訳でもない詮子が急に倒れた。
何か良くない事が起こるのではと考えた兼定は直ぐに晴明の元へ使いをやった。
だが、晴明は『外せない用事があるからお前ちょっと行ってこい』と陰陽寮で業務に励んでいる吉昌に式を飛ばした。