「グランドシャルムの従業員は、今までに数々のホスピタリティーを十分に学んできた人材ばかりだ。新卒で内定を取らないのも、熟練されたもてなしをお客様に提供するためだ。しかし、私は美貴ならここで十分にやっていけるのではないかと思っていたが……それが逆に既存の従業員の反感を買うことになってしまったんだ」

「え……？」

　確かに、グランドシャルムで働いている従業員はそれぞれがプロ意識を持ち抜かりない。そんな従業員たちを美貴はいつも尊敬の眼差しで見ていた。しかし、あちらにとってはいくら総支配人の愛娘であっても、社会経験ゼロの小娘がいきなり自分たちと同じラインに立たれては立場もなく面白くないというわけだ。

「お前の気持ちもわかるが、ここは聞き分けてはくれないか？」

「そんな……」

　結局、何も努力せずに良い結果は手に入らないのだ。人生そう甘くはないのだと、美貴は改めて思い知った。けれど、グランドシャルムで仕事をすることは美貴にとっても憧れだったため、いきなり諦めろと言われてもなかなか腑に落ちなかった。

（でも……）

　政明の言っていることも美貴には理解ができた。これで従業員の意見を無視して自分をグランドシャルムの一員として迎え入れれば、政明に不信感を持った従業員がストライキを起こして職場を離れていきかねない。自分のせいでグランドシャルムが瓦解するなんて夢見の悪いことは避けたい。