「安心しなさい、あんまり自分のこと知られるとやりにくいでしょうからね、知ってるのは総支配人と藤堂さんと私だけよ。でも、知らなかったとしてもどこかの育ちのいいお嬢さんなのかしらとは思ったけどね」


「どうしてわかるんですか?」


「こんな完璧に着付けが自分でできるなんて、若い子じゃ珍しいからねぇ、それになんとなく雰囲気もお上品だからさ、それだけにここでやっていけるのかちょっと心配」


 はい、できた。といわれて両肩をぽんっと叩かれる。鏡で見ると、すっきりと綺麗なアップにまとめあげられていた。


「なんとなくお人好しそうに見えるからさ、実際そんなんじゃなかったらごめんね。でも、仲居って女の世界だから、色々あると思うのよ」


 女だけの職場には必ずトラブルがつきものだ。頭ではわかっていても実際は想像もつかない。


「まぁ、何かあったら私を頼んなさい! そろそろ響ちゃ――総支配人が来る頃だから、挨拶まだなんでしょ?」


「はい、昨日すれ違ってしまって挨拶しそびれたままなんです」


「総支配人室は三階あがった一番奥の部屋よ、多分それが終わった頃には朝礼が始まるから、また下に降りてきてちょうだいね」


「ありがとうございます」


 ついに総支配人の花城響也とご対面だ。まずは昨日のことを謝らなければいけない。美貴は頭の中でどう経緯を説明して謝るか悶々と考えながら総支配人室へ向かった。